「拝啓、かつての私へ。」

 

“過去は変えられないけれど、未来は変えられる”

 

人は辛い経験をしたとき、この台詞を常套句のようにつぶやく。

いつまでも下を向いていられない、

こんなことで躓いていてどうする、

そう戒め、鼓舞する。

 

手綱を握り直し、喝を入れ、再び歩み始める。

そしてまた何かにぶつかった時、気が付いてしまうのだ。

また同じ過ちを繰り返しているではないか、と。

 

ふと、爛々と輝く星空を見上げてみる。

“なぜ、望まない物事ばかりが繰り返すのか……”

 

私自身、このジレンマから抜け出すのに四年以上の月日を要した。

何か嫌な予感がする度、今度こそはと意気込むものの、なぜか

望まぬ方向に運ばれてしまう。

 

そして周りを見るたび

“なぜ私だけ幸せを掴めないんだ”“まだまだ辛抱が足りないのか”

自らの不運を恨み続けてきた。

幸福の女神は、荒涼と化した大地にいつ愛情という慈雨を注いでくれるのか……

 

そんな時、覆いつくす雲の隙間からふと星空がのぞき、私にこう語りかけた。

“置き去りにしてきた本当の気持ちに向き合ってあげて”

 

私ははっとした。

あの日あの時、あの出来事からココロの時間が止まってしまっていたのだと。

“人の同意を得ず自分の意見を述べるのは独りよがりだ”

この言葉が、私のココロを縛りつづけ、こびり付いて離れなかった。

今も思い出すだけで、悔しさで涙が出そうになる。

 

それ以来、私は私であることをやめてしまっていたことに気が付いたのだ。

その場を去るとき、散々泣き明かして心は晴れたと思っていたのに。

実際は本音に蓋をして、自責と挑戦という鎧で心を埋め尽くしただけだったのだ。

誠実で素直でありたいことを他人に求めているくせに、自分がそうでなかったのだ。

 

そして私は、四年前の“ほんとうの自分”と真正面から向き合うことにした。

もうあの時の自分を責めたりしないと心に誓って。

 

映りゆく空模様を感じながら、四年前の自分に宛てて手紙を書いた。

走馬燈が駆け巡る。悔しさ、不安、悲しみ、怒り…これまで目を背けてきた

感情が一挙に溢れ出し、涙が込み上げてきた。

空も俄かに灰色になり、風が吹き荒れた。

気がつくと、A4サイズの紙に7枚になっていた。

 

そして書き終えた時、黒いヘドロのようなものがが心から吐き出され、

水色の儚くも透き通った水泡となって空に昇っていくのを感じた。

いつの間にか、灰色の空は暖かい春の青空へと変わっていった。

 

私はようやく、赦しと慈悲を与えることができたのだ。

錆付いて動かなかった錠前は外され、ココロの扉がようやく開いた。

春らしい、愛のぬくもり爽やかな風が、心を通り抜けた。

“過去が変われば、未来も変わる”

そう感じた瞬間だった。

 

私はこれから、ほんとうの私で、素直に誠実に、嘘をつかずに生きていく。

 

“辛さ”は、“幸せ”の一歩手前。

 

これからの、これまでの、全ての出会いと縁に愛を込めて。