まっさら
まっさらなノートには
どんな書き出しがいいだろう
これまでのこと これからのこと
誰もいない店の扉を開けるような
鼓動がからたじゅうをめぐるような
ただいまを何度も言いかけては引き返し
流行りのカフェテリアに入っては心の空虚さを紛らわした
ひとときの快楽に身を投げつづけよれよれになった服で
途方もなかったはずの最果てまで来てしまった
わたしを欺き誰かを欺き
柱は朽ち看板ははがれ床は埃まみれ
そんな孤独に私は絶え間ないため息をついた
心の底から好きといっていいですか
腹の底からいやといっていいですか
誓いの拳を振り上げわたしは叫びたい
これまでの何もかもを脱ぎ捨てからっぽになったわたし
まっさらなノートの書き出しなんてどうだっていい
ビルから差し込む西日をからだじゅうに浴びながら
わたしは扉をそっと開けた