覚悟

 

なにかとうまくやってきて
なんとかあいだをすりぬけて
なんとなくあしなみそろえて
なにふじゆうなくいきてきた

 

うん

 

なにかとほめられてきたし
なんとかうまくえんじてきたし
なんとなくつっかえてるけど
なにということはないはずだ

 

おや

 

なにかがたりない
なんとかとりつくろってきたけれど
なすすべもなくさらされた
いつかのかなしみとくやしさたち

 

そう

 

すてられふまれたわたしがよみがって
おいかけてくるえもしれぬかいぶつ
わたしはひたすらにげつづけ
よみちをてらすせいざもにごって

 

うん

 

もうたたかわなきゃならない
もうさよならしなきゃならない
もうとらわれつづけない
もうなくせないゆずれない

 

もういつかはくりかえさない

 

いつかはいましかないのだから


f:id:dondakeiko:20211017012636j:image

 

幸せへのブリッジ

 

どこまでも続いている青空の下

私たちは今日もブリッジをする

 

あの日もそしてあくる日も

青空の見える日も見えぬ日も

 

分厚い積雲が立ち込めて  空が灰色になった

恋人たちの談笑と霞みゆく未来が見えて

私の腕は微かに痙攣しはじめた

 

やがて土の湿っぽい匂いが漂って

ムクドリも蟻も嫌がるどしゃ降りになった

成功者たちの高笑いと過去からの断末魔が聞こえ

橋は濁流に飲み込まれた

 

どこまでも追いかけてくる辛さの水平線

だがそれでも

私たちはブリッジをやめられない

 

あの向こう側の青空へと続く

幸せへの橋を架けるため

 

 

めぐりあい

 

誰もいない山の小路を
人は歩く ゆっくりとした足どりで

 

年輪を刻んだ大樹 苔むした位牌
開祖から戦没者へ 老夫婦から若人へ 

 

永遠という名のもとで  めぐりゆくいのち

 

辛さという名の大地で
転げながらも続く幸せへの一本道

 

ふと足をとめる
風のさざめき 小鳥のさえずり

 

物質主義と集団主義をすっかり脱ぎ捨て

 

わたしは世界とひとつになった


f:id:dondakeiko:20210930004331j:image

契り

 

祈りとともに目をつぶると

 

わたしをめぐる列車が動き出す

 

窓ごしにうつる海や畑やコンビナートや民家
その街にとけこむかつてのわたし

 

窓のわたしをぼうっと見てたら
いつの間にか街は遠ざかり


f:id:dondakeiko:20210924000304j:image

 

わたしは思いっきり手をふる


さよならとありがとうを添えて

 

そしてわたしはわたしと固い契りを交わした

 

まっさら

 

まっさらなノートには
どんな書き出しがいいだろう

 

これまでのこと これからのこと

誰もいない店の扉を開けるような
鼓動がからたじゅうをめぐるような

 

ただいまを何度も言いかけては引き返し


流行りのカフェテリアに入っては心の空虚さを紛らわした

 

ひとときの快楽に身を投げつづけよれよれになった服で

途方もなかったはずの最果てまで来てしまった

 

わたしを欺き誰かを欺き


柱は朽ち看板ははがれ床は埃まみれ

そんな孤独に私は絶え間ないため息をついた

 

心の底から好きといっていいですか
腹の底からいやといっていいですか
誓いの拳を振り上げわたしは叫びたい

 

これまでの何もかもを脱ぎ捨てからっぽになったわたし

 

まっさらなノートの書き出しなんてどうだっていい

 

ビルから差し込む西日をからだじゅうに浴びながら

わたしは扉をそっと開けた


f:id:dondakeiko:20210921190753j:image

夢よいつまでも

 

いつからだろう  夢を枕に眠らなくなったのは

ツバメは巣から飛び立つのに

いちょうは色づきはじめるのに

 

いつからだろう  夢を叶えなくなったのは

カモメは海を渡ってくるのに

太陽はいつでもそばにいるのに

 

見えないものを見なくなると

見えるものが見えなくなる

 

窓の外ばかり見つめていると

私は消えていなくなる

 

妥協と嘘で塗りたぐられたキャンバス

 

こんなはずじゃなかったのに

やせこけた絵の具が最後の声をふりしぼる

 

何をおそれているのですか

夢はどこへいったのですか

 

がらんとした部屋に流れるレット・イット・ビー

見たいものだけ見せたところで

私の帰る場所はありゃしない

 

レット・イット・ビー    夢よ立ち上がれ

あなたはあなただけのもの

いま

 

わたしは今日も街を歩く

 

四車線の大通り
信号機は青に変わり
忙しなく走りゆく自動車

 

さまざまなカタチで
さまざまないまを乗せて

 

どこがはじまりでどこがおわりか

 

見知らぬ小路といつか来た道が交差する場所

立ち並ぶビルを見上げれば
かつての記憶が鮮明に甦る

 

かつてのわたしに思いをはせば
埃まみれの本が言葉を紡ぎだす

 

わたしは今日も歩いてく

 

どこがはじまりでどこがおわりか
そんなことは分からぬけれど

 

コーヒー店に並ぶひと
コーヒーを片手に言葉を交わすひと
仲睦まじく手をとりあうひと
遠い誰かと話をするひと

 

そこには確かに幸せがあり
何にも代えがたい愛がある

 

いくつものいまを重ね
いくつものいまを感じながら

空はどこまでも続いている

 

わたしを愛し 誰かを愛し 世界を愛し

てとてを取り合い 今日も生きてゆく

 


f:id:dondakeiko:20210905164308j:image