覚悟
なにかとうまくやってきて
なんとかあいだをすりぬけて
なんとなくあしなみそろえて
なにふじゆうなくいきてきた
うん
なにかとほめられてきたし
なんとかうまくえんじてきたし
なんとなくつっかえてるけど
なにということはないはずだ
おや
なにかがたりない
なんとかとりつくろってきたけれど
なすすべもなくさらされた
いつかのかなしみとくやしさたち
そう
すてられふまれたわたしがよみがって
おいかけてくるえもしれぬかいぶつ
わたしはひたすらにげつづけ
よみちをてらすせいざもにごって
うん
もうたたかわなきゃならない
もうさよならしなきゃならない
もうとらわれつづけない
もうなくせないゆずれない
もういつかはくりかえさない
いつかはいましかないのだから
契り
祈りとともに目をつぶると
わたしをめぐる列車が動き出す
窓ごしにうつる海や畑やコンビナートや民家
その街にとけこむかつてのわたし
窓のわたしをぼうっと見てたら
いつの間にか街は遠ざかり
わたしは思いっきり手をふる
さよならとありがとうを添えて
そしてわたしはわたしと固い契りを交わした
まっさら
まっさらなノートには
どんな書き出しがいいだろう
これまでのこと これからのこと
誰もいない店の扉を開けるような
鼓動がからたじゅうをめぐるような
ただいまを何度も言いかけては引き返し
流行りのカフェテリアに入っては心の空虚さを紛らわした
ひとときの快楽に身を投げつづけよれよれになった服で
途方もなかったはずの最果てまで来てしまった
わたしを欺き誰かを欺き
柱は朽ち看板ははがれ床は埃まみれ
そんな孤独に私は絶え間ないため息をついた
心の底から好きといっていいですか
腹の底からいやといっていいですか
誓いの拳を振り上げわたしは叫びたい
これまでの何もかもを脱ぎ捨てからっぽになったわたし
まっさらなノートの書き出しなんてどうだっていい
ビルから差し込む西日をからだじゅうに浴びながら
わたしは扉をそっと開けた
夢よいつまでも
いつからだろう 夢を枕に眠らなくなったのは
ツバメは巣から飛び立つのに
いちょうは色づきはじめるのに
いつからだろう 夢を叶えなくなったのは
カモメは海を渡ってくるのに
太陽はいつでもそばにいるのに
見えないものを見なくなると
見えるものが見えなくなる
窓の外ばかり見つめていると
私は消えていなくなる
妥協と嘘で塗りたぐられたキャンバス
こんなはずじゃなかったのに
やせこけた絵の具が最後の声をふりしぼる
何をおそれているのですか
夢はどこへいったのですか
がらんとした部屋に流れるレット・イット・ビー
見たいものだけ見せたところで
私の帰る場所はありゃしない
レット・イット・ビー 夢よ立ち上がれ
あなたはあなただけのもの
いま
わたしは今日も街を歩く
四車線の大通り
信号機は青に変わり
忙しなく走りゆく自動車
さまざまなカタチで
さまざまないまを乗せて
どこがはじまりでどこがおわりか
見知らぬ小路といつか来た道が交差する場所
立ち並ぶビルを見上げれば
かつての記憶が鮮明に甦る
かつてのわたしに思いをはせば
埃まみれの本が言葉を紡ぎだす
わたしは今日も歩いてく
どこがはじまりでどこがおわりか
そんなことは分からぬけれど
コーヒー店に並ぶひと
コーヒーを片手に言葉を交わすひと
仲睦まじく手をとりあうひと
遠い誰かと話をするひと
そこには確かに幸せがあり
何にも代えがたい愛がある
いくつものいまを重ね
いくつものいまを感じながら
空はどこまでも続いている
わたしを愛し 誰かを愛し 世界を愛し
てとてを取り合い 今日も生きてゆく